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2024年冬・雲南省トリップ

インプット旅行はとても久しぶりで、ウキウキしたのでブログにしたためます。

1996年バックパッカーとして中国に乗り込んだとき、雲南省の素晴らしさは先輩バックパッカーから何度も聞いていた。特に北京の日本人宿にはインドやチベットから雲南を経て北京にたどり着いた猛者が何人もいて、中でもコンビニ袋1枚で旅していた、ガンツで言うところの8回クリア岡八郎みたいな日本人が「雲南は沼だった」というようなことを言っていたのを鮮烈に覚えている。なお、雲南のどこがどう沼なのかは覚えていない。

仕事で浙江省・杭州を出入りするようになり、中国の意識高い人からも「雲南は特別」「中国のオーガニックカルチャーなら雲南」というようなことを聞かされたので、仕事でお世話になっている彭さんから「年明けに雲南に行くけど一緒に行かないか」と打診されたとき二つ返事で快諾。日本からの同行者は盟友ヒグマドーナツの春日井順、彼も雲南と聞いただけで全予定を調整する類の人間。今の中国はビザも取りづらく、ネット環境も限定的。ネットが使えないとタクシー的なものやアリペイ的なサービスも受けられない。そもそも英語があまり通じず、中国の人に案内してもらうことが大前提なので、このようなお誘いは本当にありがたい。

今回の目的地は「雲南省大理市白族自治州」。広さ1815k㎡、人口76万人は香川県くらいの広さに練馬区ほどの人口がいるようなイメージ。「洱海」という琵琶湖とほぼ同サイズの湖がある。標高2000mに位置し、最高気温は20〜27度と気候が一年を通じてよく、空気も澄んでいる。到着した瞬間、こじらせていた風邪が治ったような感覚があった。

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大理の雲南カルチャーをよく知る「袁さん」という人が現地をいろいろ案内してくれるという。案内人の良し悪しが旅の体験を左右する。大理に到着し、袁さんが挨拶もほどほどに我々を案内したのは、彼いわく「非常に平凡なお店」と言い放った、学生街にある何の変哲もない店の「蒙自黄牛米线」。辣と酸が複雑で、ミントの香りに完全にノックアウトされ、脳みそが揺れるほど美味しかった。今から考えると袁さんがこれを平凡と過小評価したのは自信の表れだったのだろう。平凡 is beautifulを最初に持ってきたことで完全に彼を信頼した。その後2泊3日で彼が案内した宿やレストラン、カフェ、友人宅は最高を上塗りし続ける。
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袁さんの友人で、家具デザイナー/メーカーの登さん(パーマがキュート)のアトリエ兼自宅兼客室。半年かけて3000万円で作ったとのことだけど、安いのも驚きだけど、美意識すごいなと思わされる。雲南は木材・古材も豊富にあり、家具デザイナーとしてはやりがいのある地域なのだろう。
袁さんが選んだ雲南のベーカリーのパンやら果物に合わせて、でもやっぱりそこは白酒で乾杯。今回の旅のパートナーが順さんでよかった、こういうときに最強人材。

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初日の宿、西側の4000m級の山々の麓にある「大理大吉」。ただひたすら快適すぎて、宿のオーナーから「日本人から見てなにか足りないことはないか?」と聞かれて、順さんとダブルベッドが問題だ!くらいしかフィードバックができなくて申し訳なかった。中国奥地というとあの強烈なトイレをイメージしていまうところが、海外初ウォシュレットをまさか雲南で体験することになるとは思わなかった。
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初日ディナーは雲南食材、雲南料理のフュージョン系ビストロ。こんなところにもヨーロッパ系ナチュラルワインが入り込んでいるが、雲南ワインも同等にナチュラルな作りのものが多い。
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二日目の朝は市場散策。朝食は市場の「把肉饵丝」。トッピングは自分で選べるスタイルなのだが、袁さんはどうやら味わいだけではなくビジュアルには相応のこだわりがあるようで、彼に任せると味だけでなく見た目も完璧なものが出てくる。この辺から彼の職業がうっすらわかり始める。

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観光客のための市場ではなく、生活者のための市場である。最高じゃないか。日本の保健所のおじさんが見たら泡吹いて倒れそうな光景が続く。キノコが名産でもあり、一説によると200種類くらいあるらしい。この裏を取りようがない情報がよい。
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市場をあとにして次の目的地は看板もない予約制の茶席(兼宿)。一杯の価格設定はなく、「一回」の価格設定のよう。オーナーさんは出身は東北?だけど雲南でオーガニック農家やって、お茶とコーヒーの世界に。ものすごく高い美意識や彼の慎ましい所作が完全に空間にフィットしていた。コーヒーもお茶も同等に扱うスタイルは自分がもっともやりたいことの一つであり、「一杯の味覚」の提供価値でなく、「豊かな時間」そのものを提供価値としているところに憧れる。

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イスラエルから移住してきた楽器奏者のヨーヨーさんの自宅兼カフェ兼宿。うって変わってモロッコ感ある空間。穏やかパーソンオブザイヤーin雲南。

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まだ創業して2ヶ月のレストラン「Trout」。シェフはアメリカにもいたけど、大理の魅力に引かれて移住&独立。洗練された空間とオール雲南食材、なんなら菜園で育ててます。山々のランドスケープに澄んだ空気、気の利いた雲南ワイン。日本人が「豊かさとはなにか」を反省させられるレストラン。最近世界にたくさんでき始めている、あるあるレストラン。素晴らしいじゃないか。この辺から情報量の多さに、何がなんだかよくわからなくなってきた。

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アーバン?ワイナリー。ニュージーランドで醸造を学んだダニーさん。雲南移住&起業。シャングリラ界隈で取れるシャルドネ、限りなくナチュラルに近い感じ。

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大理の街にはまだコーヒーは文化として成熟していないように思われる。そんな中でも頑張っている大学街にあるロースタリー&カフェ&オーガニックグロサリー。雲南のコーヒー豆を使った焙煎や、自社インポートによる中南米系の豆など。大理にも10個くらいロースターがあるのでは?との話だったけど、でも無理にコーヒー飲む必要はないよね、お茶がむちゃくちゃ美味しいし。必要があれば成長する。
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二日目の宿は湖畔。アットホームと洗練が同居。ディナーと朝食も。湖畔ロケーションがすばらしく、暴飲暴食解消のために付け焼き刃ランニング。このあたりの開発は政府も絡んでいるようで、パッと見、日本の地方の開発計画よりも思い切っていて、スピーディーで的確に見える。

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袁さんが賃貸契約したという、畑付きの謎の建物と干し白菜。レストランと宿と彼のアトリエになるらしい。このあたりは村人でないと土地が所有できないらしく、何かをやろうとするとすべからく賃貸に。けど賃料は天文学的に安い。使い方間違っているけど。

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一泊目のホテル大吉のスタッフさんが結婚されるとのことで現地の結婚式に飛び入り参加。といってのそんなに珍しいことではなく、この辺の人は年間に200回くらい呼ばれるらしいし、非常にオープンなので飛び入りウェルカムとのこと。とはいえ観光客が増えるとそうも言ってられない現実も来るだろう。

このあたりから白酒飲み過ぎで胃が荒れてきた。

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男は酒が強くないと認められず、このビールを全部飲み干さないと結婚が成立しないらしい。とはいえ、サポートをつけてチームで飲み干すのもOKとかそんなルール。

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牛舎をリノベしたお茶屋「春里」。ずっと喋ってられる居心地の良さよ。

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袁さんプロデュースによる、謎の貸し切り洱海クルージング。。。貸し切りなんて望んでないのに、どうやら仕事の一環なようで、政府も含めて新しい洱海観光開発をやっているとか。袁さんについては終始謎人物ではあったが、おそらく超多忙であろう中、二日間まるっとアテンドしてもらい、予約なども我々のためにねじ込んでくれたりしたのだろう。本当に感謝。なお、上記のきれいな写真は袁さんの一眼レフで撮ったもの。人の写真をさも自分が撮ったように使ってごめんなさい。旅の臨場感優先なので。

これが大理のすべてではないが、上澄みの部分をまるっと理解できた。なお、今回それぞれの価格が全くわからない。あとでまとめて請求が来るとのこと。桃源郷プライスが来るか、無間地獄プライスが来るか、精算が終わるまでが旅。

さて、オシャ雲南を満喫しにいった訳ではない。いまどきオシャな街はどこにでもあり、今回ここまでオシャだったのはどちらかというと副産物だった。

学んだこととしては
◯紹介された人はほぼ中国他地域からの移住系。移住系がカルチャー牽引しているのは日本も同じ。
◯美意識高い人がとてもとても多い。美意識とは何かは議論が分かれるところだが、少なくとも美しくあることに多くの敬意を払っている人が多かった。
◯雲南の人が総じてシャイで慎み深く、それでいてオープンマインド。
◯食事は何を食べても美味。特に食材の強さがよい。オーガニックが多いとのことだが、確かにそんな感じがする(が裏は取れていない)。
◯気候が良すぎて、病気になる気がしない。
◯賃貸が天文学的に安い。

みたいなところでしょうか。

移住が促進されている状況やカルチャーが芽生えていることに対してのゆるい仮説ですが、
・中国の発展とともに意識の高い裕福な人たちが中国のあちこちで顕在化。
・意識高い人たちがライフスタイルを体現しながら何か商いをやるには大理は恰好の場。
雲南の少数民族文化はその多様性でアート系の人たちを刺激し、文化の交流点にもなっている。
・ランドスケープはどこを切り取っても唯一無二。ほどよい中古物件も多数ある(でも買えないので賃貸)。
・食材豊富、気候的にこれからなんでも作れてしまう。コーヒーやカカオのような赤道直下系の原材料と、白菜みたいな高原野菜が両方あるなんて雲南くらいだろう。
・もちろんプーアル茶のような伝統に根ざした食材や激ウマなローカルフードもあり、ストーリー性もよく人を惹きつける。
・無理なくローカル食材をつかった伝統的な料理が多いということ、健康志向ということにも繋がりやすく、現代的な料理へと発展するのも容易な環境。
・シャイながらもオープンマインドな雲南人は格好の現場人材。
・気候がよくて年中営業もできる。
・バブルが終わり、場を作るのにはあらゆる初期投資、運営コストが安い上に、しっかりとした客単価が取れるので、さまざまなゆとりが生まれる。
・空間的、経済的なゆとりがクリエイティブな発想を促し、さまざまなコンテンツを生み出す。クリエイティブな人であればこの場にそそられるのは必然。
・若者の投資マインドがこなれている。意識高い人が裕福とはいえ1プロジェクト数千万円かかる。そこは友人出資が積極的で、カジュアルにやりくりされている。一方で政府系も観光開発に積極的。
・つい最近まで交通の便は最悪で、あくまで秘境扱いだったのが、飛行機・新幹線が便利になり、移住組が行き来しやすくなり、一気にコンテンツが増した。昔はバスで3日とかそんなレベルだったので、その落差は大きい。

みたいなことだろうか。急速な観光開発や地元民と移住者の軋轢みたいな日本でも聞いたことある課題はおそらくこれからあるだろうし、もちろん現実は甘くない。

飲食に限って言うと、大理はコストに追われずにホスピタリティを追求できるのは最高の環境だと思う。翻って東京の飲食はというと、それはそれで世界最高の都市の一つではあるし、様々な細かいところにものすごいエネルギーかかっているけど、雲南のそれと比べるとエネルギーのかけどころはそこでいいのか?みたいなことが見えてくる。日本の地方にはもちろん可能性はあるけど、地方の現実も甘くない。

一方、隣の芝を青く見ているだけではなく、日本で生きていくには日本にしかない優れた点を客観的に理解すべき。このままだと自信を失うばかりだけど、全然圧勝しているポイントもあるはず。

中国の人は日本から見ると「日本にやってくるインバウンドの人」という認識になりがちだけど、全員に個性がありそれぞれの理由で日本にやってきて、WATのカフェにも頻繁に来ていただいている貴重なゲストだし、日本でそれぞれに向き合うだけでぜんぜん違った世界が開けるだろう。

今回の旅で知り合った様々な方、同行いただいた方、大変ありがとうございました。

キノコ狩りの季節が面白いからぜひもう一回来いとのことだったので、また無理して行ってみたい。参加者若干名集います。